ついに届いた世界大会仕様エンジン──迫る本番、試射で見せた執念と工夫

ロジムに7歳のころから通っている橋本龍之介くん。
彼が率いる東京都立小石川中等教育学校モデルロケット班が、ロケット甲子園で優勝。
今年6月には、フランス・パリで開催される世界大会に日本代表として出場します。

※モデルロケットって何?という方はこちらの記事もどうぞ
【モデルロケットとは?競技のルールと世界大会の仕組みを詳しく見る】

ロジムでは、そんな彼らを深掘りし、知られざる苦悩や世界大会に向けた軌跡を追って記事にしていきます。

先日お伝えした「大会仕様のエンジンが届かず、データが取れない」という記事はご覧いただけたでしょうか。

そのエンジンが、なんと急遽日本に届いたとの連絡が!
到着予定の8日、本来は打ち上げの予定はありませんでしたが、急遽試射が決行されました。
当日は、チームメンバーのお父様が空港で受け取り、試射会場である千葉工業大学のグラウンドまで届けてくださることに。

広々としたグラウンドに到着した一同。
「まず野球やろうぜ!」「風もないし、絶好の打ち上げ日和だ!」という明るい声が飛び交う中、橋本くんはどこか浮かない様子。

▼試射会場の千葉工業大学のグラウンド

▼試射用のロケット

「データ上では日本にあるはずですが、本当に届いているのか…。仮に届いていても、税関で火薬が引っかかっていたら今日中に受け取れるかどうかもわからないんです…。」
そう語る橋本くんの表情には、国内ではエンジンを製造できないという現実と、それに伴う不安がにじんでいました。

▼接着剤を削る様子

グラウンドを使用できる時間も限られているため、エンジン到着に備えてすぐに準備に取りかかる一同。
テントを設営し、モデルロケットの機体を一つひとつ手に取って整備を開始。
接着剤がはみ出していればカッターで削り、空気抵抗を減らすために表面をヤスリで滑らかに仕上げます。

▼日の丸を背負った機体

彼らの機体には、日本の象徴・日の丸が。
「これから世界に挑む」という気概が、そこには確かにありました。

「もし届かなければ、この準備も水の泡になってしまう…。」
そんな不安がありながらも、それを言葉にする者はいません。

前日の打ち上げでフィンが破損していた一機も、迅速に整備。
ロケット競技では部品の破損は日常茶飯事。誰も動揺することなく、静かに作業を進めます。

火薬が届くまでの間、所定の場所に火薬保管用のテントを設営し、警告表示も設置。
ただ、どこか落ち着かない雰囲気が漂っていました。

モデルロケット競技で最も重要な工程の一つが「やすりがけ」です。
空気抵抗の軽減はもちろん、パラシュートを展開するパーツの精度にも関わるため、ミリ単位の調整が求められます。
この日もあちこちからやすりがけの音が響き続けていました。

「来たんじゃない?!」
そんな声とともに、一同の視線が一台のバンに集中。鍵付きのケースを携えたチームメンバーの保護者が登場します。

ケースを開けると、そこには20本もの大会仕様エンジンが!日本国内では目にする機会の少ない、大出力のエンジンです。
誰もがその光景に期待と高揚を隠せません。

▼ネジの調整:削る・やする・切る

すぐに打ち上げに移りたいところでしたが、次なる問題が発生。
機体組み立てに必要な“短いネジ”が不足していたのです。

その場にあるネジを削って調整しようと試みるも、断念。
結果的にネジを使い回すことで乗り切ることになりました。

測定器をマスキングテープでロケットの機体に固定し、重心の確認とシミュレーションを繰り返して、いよいよ1機目の打ち上げ。

▼糸で重心を図る様子

糸で吊ることで重心を確認し、何度もパソコンでシュミレーションを繰り返してついに打ち上げへ。準備を終えたモデルロケットを手に、天体望遠鏡のスタンドから作った打ち上げ台に向かいます。

▼ついに打ち上げ(動画)

上空の飛行物や周囲の安全確認をする声が響き、ついに打ち上げのカウントダウンが。「発射!」の声から数秒後、大きな音と共に煙を黙々と立ち登らせながら真っ赤な機体が空に向かって飛び立ちました。

国内最大級ということもあり、普段よりも力強く飛び立つロケットに都立小石川モデルロケット班の面々も興奮を隠しきれない様子。

当日は湿度が高く、風もなかったことから煙がその場にとどまります。立ち込める火薬の匂いと煙もなんのその、すぐさま落下した機体を回収し、内部に先ほど搭載した計測器からデータの収集、分析を始めます。

 「対空時間は何秒?」「短すぎる!」「次の機体どうなってる!」「次パラシュートこっち使って!」と慌ただしくも速やかに次の準備に取り掛かります。

▼シミュレーションデータ

新たな機体の準備では、粘土を使ったおもりの調整やパラシュートの選定が続きます。
本番では全て650g以内に収めなければならない上に飛距離を調整しなければなりません。対空時間を調整するために重さ、重心の位置、パラシュートが非常に重要になるため入念に確認し、データ上のシュミレーションを再度重ねます。

「2.8g重い!」「1g足りない!」「ジャスト!これでいける!」
データと現物を照らし合わせながら、調整が進みます。

2度目の打ち上げを目前に、新たなトラブルが。今度は打ち上げ用の装置の不調で打ち上がりません。

大きなエンジンに点火するためには大きなエネルギーが必要となるため、車のバッテリーを使用しています。また、着火のためには一定時間規定の大きさの電流が流れなければなりません。その条件をクリアするためには打ち上げ装置も万全の状態でなければ打ち上がりません。

▼デジタルテスターを使用し装置修復作業中

すぐさま装置を慣れた手つきで分解、デジタルテスターで不具合が起きている箇所の特定に移ります。思考を巡らせて格闘すること30分ほど、原因の究明と修理を済ませてようやく次なる打ち上げに移行できました。

その後も部品の破損や、想定外の事態が続きます。
ノーズコーンが割れ、搭載した卵がまさかの破損。初めての出来事に全員驚きを隠せません。

これまでの試射でも一度も割れたことはありませんでした。これには流石に動揺を隠せない一同。とはいえ立ちすくんでいる時間はありません。すぐさま保護機構を作り直し、次なる打ち上げに備えます。
こういったトラブルの際にも誰かを責めたり、重苦しい雰囲気にならないのも都立小石川モデルロケット班の強みです。

「口を出すより、失敗させた方がいいんですよ。」
顧問の副校長先生のこの言葉に、彼らの自主性を尊重する指導方針が垣間見えます。

この日、8機ものロケットを打ち上げた彼ら。
疲労の色が見えながらも、最後の最後まで全力で取り組みました。

守衛さんへの挨拶も忘れず、グラウンドを後にする姿に感動すら覚えました。

この日の成果について橋本くんはこう語ってくれました:

「今日得られたデータを解析し、世界大会に向けた最終調整に活かしたいです。」

世界大会まで、もうすぐ。
彼らが全力を出し切れるよう、私たちはこれからも全力で応援していきます!

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