次々と立ちはだかる壁、それでも進む──小石川ロケット班、世界への挑戦記

ロジムに7歳のころから通っていた橋本 龍之介くん。
彼が率いる東京都立小石川中等教育学校モデルロケット班が、2024年の「ロケット甲子園」で見事優勝を果たしました。
そして今年、2025年6月19日・20日にフランス・パリで開催される「ロケット世界大会(International Rocketry Challenge)」に、日本代表として出場します。

※モデルロケットって何?という方はこちらの記事もどうぞ
▶︎【モデルロケットとは?競技のルールと世界大会の仕組みを詳しく見る

ロジムでは、そんな彼らを詳しく深掘りするとともに、知られざる苦悩や世界大会に向けての軌跡を追って記事にしていきます。

*RikuriX:都立小石川中等学校モデルロケット班のチーム名

モデルロケットを飛ばすにあたって、絶対に欠かせないのが動力源である「エンジン」です。

日本では火薬類の取り扱いに厳しい法規制が設けられており、たとえば手持ち花火を分解して火薬を取り出す行為でさえ、火薬類取締法違反として罰せられる可能性があります。モデルロケット用のエンジンも同様で、個人間の譲渡や分解・改造は禁止され、保管も許可を受けた管理者のもとで厳重に行う必要があります。さらに、使用後のエンジンは再利用不可の「使い切り型」であるため、打ち上げのたびに新しいエンジンが必要です。

日本国内でもロケットエンジンを研究・開発している企業はありますが、市販化には至っていません。そのため、都立小石川モデルロケット班では、海外から火薬が入った状態の完成品を正規の業者を通じて輸入し、使用しています。

ところが今回、世界大会に向けて準備していたエンジンが、なんとアラスカ州のアンカレッジ空港で足止めされてしまいました。エンジンは世界大会用に、国内大会で使用しているものよりも大型のタイプを使用するため、これが届かないと打ち上げの実機実験ができなくなってしまいます。チームの誰も、現在の足止めの詳しい理由までは把握できていません。

大会本番では、指定されたエンジンの型番を申告すれば主催者側が用意してくれる仕組みになっているため、「大会に出場できない」という事態にはなりません。ただ、ロケット班としては本番同様の条件での試射実験を行い、データを集めて機体調整をしたかったため、届かないことは大きな痛手となりました。

加えて、天候不順が続いていたこともあり、打ち上げ予定日が何度も中止になってしまいました。パリでの世界大会は気候が異なるため、日本国内での打ち上げデータは非常に重要。チーム内では「何とかしてデータを取れないか」と模索が続きます。

打ち上げが日程がなかなか決まらない中、実験室で空気抵抗に関するシミュレーションを繰り返す様子
(提供:都立小石川中等ロケット班)

一時は、火薬販売業者の拠点がある奄美大島まで出向き、現地で打ち上げる案も浮上しました。しかし、南西諸島に位置する奄美大島の天候が安定しないことを理由に計画は中止。

そんな中、火薬販売業者を通じて知り合ったロケットの専門家の方が、長野県での打ち上げに全面協力してくれることになりました。しかも、その方は都立小石川ロケット班が使用する大型ロケットに必要な追加の手続き(県の特別な打ち上げ許可)まで済ませてくださり、6月1日に長野で臨時の試射を行うことが決定しました。

しかし実際に打ち上げられるロケットはわずか4機。天候次第では途中で中止になる可能性もあり、全機を飛ばせるかどうかもわかりません。非常に厳しい条件の中での試射です。

それでも彼らはめげることなく、できる限りの調整を重ねています。「本番と同じ環境での打ち上げができないのならば、設計を見直し、落下時間は計算で導き出そう」と、頭脳で補う工夫も取り入れている姿が印象的でした。

追記その後、予定通り6月1日に長野県での試射が行われました。天候にも恵まれ、無事打ち上げに成功。準備に協力してくださった方々に感謝です。当日の様子を記録した写真と動画はこちら↓(提供:都立小石川中等ロケット班)

トラブルはエンジンだけに留まりません。世界大会の正式なルールが、事前の想定と異なっていたのです。

世界大会のルールは基本的にアメリカの大会規定をもとにしています。そのため、都立小石川ロケット班ではこれまでの知見を活かし、「ロケットの上下で太さに違いを持たせる」など、規定を踏まえた設計を進めていました。

しかし、正式通達された新ルールでは、この「上下の太さの違い」ルールが撤廃。これにより、急遽ロケット本体の設計を見直す必要に迫られました。

さらに、競技ではロケット打ち上げ(得点の6割)に加え、英語でのプレゼンテーション(得点の4割)が重要視されます。そのため、プレゼンの準備も着実に進めていたのですが、監修を依頼していたロケット工学の教授との都合がつかなくなってしまいました。しかしながら、自分たちの手でプレゼンを構成するのは至難の業。どうしても手を借りる必要があります。そこで協力をいただいている大学の関係者の方や彼らが通う学校の先生、あらゆる人に頼る案が出ました。

その中から彼らが依頼したのは都立小石川のOB。アメリカで仕事をされていた英語に堪能な方にプレゼン監修を依頼しました。不慣れな英語でのプレゼンですが、ロケットの制作と並行して取り組んでいます。

小石川モデルロケット班は、過去にも困難な状況を乗り越えてきました。

素晴らしい結果を収め見事優勝したロケット甲子園、大会前の試射で思うような結果が出なかったことから、ロケットを「一から作り直す」という決断を下しました。大会の1週間前でした。

「このままでは優勝できない!」と班員全員の意見が一致したこの判断により、本体そのものやロケットの細部の設計、パラシュートの機構の見直しを急ピッチで進め、わずか一週間で新たな機体を作り上げました。本番では誤差を2%に抑え、見事優勝を果たしました。

「とりあえずやってみよう」「諦めずにやり抜くこと」という普段彼らが大切にしている姿勢が実を結びました。

エンジンの遅延、設計ルールの変更、プレゼン監修のトラブル…。次々と困難に直面しながらも、都立小石川モデルロケット班は、世界大会に向けて一歩ずつ前に進んでいます。

どんな逆境でもあきらめない。

目の前の課題をチームで乗り越えようとする彼らの姿に、私たちも大きな勇気をもらっています。今後も、ロジムでは彼らの挑戦をレポートしていきます。

応援よろしくお願いいたします!