知識と応用力

全国学力テストの結果によると、最近の小学生は知識はあるが応用力がないらしい。
あたりまえだ。知識レベルと応用力レベルが同じであるはずがない。まずは知識を覚え、その覚えた知識を元に運用力が養われるのだから。

この知識と応用力について算数に絞って少しお話を。
「算数の力」は大きく2つに分けられるだろう。
1つはアルゴリズムを知っているかどうか。アルゴリズムとは、「こうすれば、・・・が算出できる」というルールのこと。証明の要らない公理(一周は360度など)だけでなく、証明なしで運用しても差し支えのない公式などを「覚える」力が求められる部分。先人達が非常にシンプルな形に落とし込んでいるので、我々は結論だけ覚えておけば最低限の問題には対応できる。
もう1つは、ごく一般的な事象の中にアルゴリズムを見つけ出す力。1+1=2というのはアルゴリズムとして「覚える」範疇にあるが、「アメ1つとりんご1つで合わせていくつ?」などという極めて一般的な問題を解くには、使用するアルゴリズムを覚えるのとは次元の違う「抽象化の能力」が求められる。

どちらが大切なのかという話はあまり意味がないのでここではせず、最近頻繁に寄せられる質問と関連付けて考えてみる。

「算数の勉強は・・・年生まで終わっているのだが、その学年に入れてもらうことは可能ですか?」

ロジムだけでなく、多くの塾で受ける質問だ。
実は、この「・・・年の勉強が終わっている」という意識は、非常に危険なものである。
この「・・・年の勉強」とは、その学年のテキストに書いてあるアルゴリズムを知っているに過ぎないことがほとんどである。面積の求め方を知っている1年生や因数分解の仕方を知っている1年生もいるが、これは「覚える」力があることを証明するものであって、総合的な算数の力、とくに2番目のアルゴリズムを発見するという所謂応用力があることを証明するものではない。
しかし覚える力を発揮し、一般的に学年ごとに設計されているカリキュラムで実際の学年を飛び越えていると本人も保護者も「算数が出来る」という意識が高まっている。特に低学年時は、1ヶ月も集中して取り組めば1年分の先取りは可能で、低学年時の1年分は大きな差に見えるのでなおさらである。実際、割り算を知っている子と知らない子を同じ教室に入れて、割り算の問題を解かせれば前者は天才児に見えるだろう。3年生の勉強をしている2年生の多くは、世の中の2年生の勉強をしている2年生全員より「頭が良い」と勘違いしやすい。
この高揚感は、後に大きな負担を親子に強いる場合がある。

5年生以上になってくると、算数の勉強から「アルゴリズムの習得」という部分が少なくなってくる。すでに知っている事実を、速さや容積など一般的な事象に応用する問題が主体になってくる。上記でいう2番目の能力が問われるようになるのだが、このことは子供にとって非常に酷なことである。
まず、個人個人で非常に大きな差がある。この差を埋めるのには非常に時間がかかるし、小学生の確保できる勉強時間では埋まらないことも多い。割り算を知らない子供が知っている子供に追いつくには1日で足りるが、「0、3、8、15、24・・・」という数列を見て規則に気付けない子供が気付けるようになるには相当に時間がかかる。

さらに注意すべきは、1番目の力は2番目の力を保証していないという点である。覚える力を発揮して、トップを走っていたレースとは、違う能力で突然順位付けがなされるのである。
それで抜かれてしまったのであれば、そこからがんばればよいという考えもある。しかし、実際に抜かれていく現実に対して、幼い子供も保護者も精神的に耐えられない場合がほとんどである。
「前は算数が出来たのに」「低学年から一生懸命頑張ったのに」
様々な思いが、親子を追い詰める。

私は、小学生特に低学年が勉強に関して「競争」の意識を持つのは非常に危険だと考える。「競争」をうまく活用できたときの効用よりも、悪く作用したときの損失のほうが数倍も大きいからである。子供が好奇心から希望する先取り学習は奨励されるべきものだが、保護者は、子供に先取り=追い抜きではないことを強く意識しなくてはいけない。(ただ、最近は保護者が、先取り=追い抜きだと勘違いしていて、子供に大きなプレッシャーを与えていることも多い。)

そして低学年時でも、さらには受験が目前に迫っても、「自ら試行錯誤して考える」という発見的学習にじっくり取り組むことで2番目の能力を鍛えることが大切である。アルゴリズムの先取りよりも、何倍も忍耐力が必要で時間もかかるし、目に見える効果は得にくいがそれしかないのである。

算数はスポーツに近いとよく言われる。サッカーにたとえてみると、1番目の力は「ルール」「パス・ドリブルなどの基本動作」「基本戦術」を覚える力。2番目は「実際の試合の場面場面を打開する力」である。
ルールを覚えるのがはやかった選手が良い選手かというとまったく違う。1番目の力がそれなりの時期でも、やはり試合をして2番目の力を同時に養うことは重要なのである。